脊椎分離・すべり症
病態: 腰椎すべり症とは椎骨が前方へずれる状態を言う。腰椎は生理的な前弯を有するため、下部の腰椎(第4腰椎や第5腰椎)では力学的に常に前方へずれようとする力が働く。すべり症は前方にずれた腰椎の名称をもって、第○腰椎すべり症と表現する。
腰椎椎弓を構成する上・下関節突起の間の関節突起間部の連続性が断たれた状態を言う。分離部から脊椎前方部が前方へすべった状態を脊椎すべり症と呼ぶ。
腰椎すべり症は、腰椎分離すべり症(分離症を認めるタイプ)と腰椎変性すべり症(分離症を認めないタイプ)とに分かれる。病態メカニズムは分離症の有無にかかわらず、腰椎症性変化(年齢的な変化)が基盤となって、年とともに変性が進行し、次第にすべり症が発生すると考えられている。尚、「症状」と「すべりの程度」との間に相関関係はない。レントゲンですべりの程度が大きいから、症状がひどいと言う事ではない。
腰椎分離すべり症
腰椎分離症の30%程度に腰椎分離すべり症が発生すると考えられている。多くは第5腰椎に好発する。若い頃は無症状に経過するが、腰椎症性変化が出現する中高齢者になって腰痛などの症状を訴える。時に、腰神経根や馬尾が圧迫されて根性坐骨神経痛(痛み、シビレ感など)を認める場合もある。又、馬尾神経が圧迫されて間欠性跛行を認めることもある。診断にはレントゲン検査が不可欠である。レントゲンでは「椎弓の分離」と「椎体のすべり」を認める。
腰椎変性すべり症
腰椎変性すべり症は腰椎症性変性が基盤となって発生する。しかし、「年齢」、「症状」、「すべりの程度」との間に相関関係は認められない。すなわち、年を取るにつれて、すべりの程度が進行し、症状が悪化すると言うものではない。腰椎変性すべり症は女性の高齢者に好発し、第4腰椎によく認められる。症状は腰痛が主であるが、時に腰椎神経や馬尾が圧迫されて根性坐骨神経痛や間欠性跛行を認める場合もある。診断にはレントゲン検査が不可欠である。レントゲンでは椎間板の変性や椎間関節の変性、特に、椎体の不安定性(ぐらつき、ずれ)を認める。しかし、「椎弓の分離」は認められない。
治療は保存的治療が原則である。まず安静を指示し、日常生活動作の注意点を指導する。又、症例によっては装具療法としてコルセットを製作する。コルセットは腰部の後屈を制限し、前屈位の状態(前屈位にすると神経の圧迫が減少するため)で作成する。
さらに、痛みやシビレ感に対しては痛みの基本的治療法に則り、非ステロイド系抗炎症剤やビタミンB製剤、筋弛緩剤を処方し、リハビリテーションとしては温熱療法や腰椎牽引療法(牽引により症状が増悪することもある)を指示し、腰部のストレッチングや筋力強化訓練(特に、腹筋の強化)を指導する。頑固な症例では神経ブロック療法(腰部硬膜外ブロック・神経根ブロック・分離部ブロック・椎間関節ブロックなど)を試みる。
これらの保存的治療で改善の得られない症例では手術的治療を考慮する。術式はMRIや脊髄造影などを参考にして、病態が馬尾神経由来か、腰神経根由来か、椎間板由来か、椎間関節由来かを検討して各種の除圧術(後方よりアプローチして椎弓を切除し、神経の圧迫を取り除く方法)を行う。椎体の不安定性(ぐらつき、ずれ)を認める症例では、各種instrument(固定器具)を用いた椎体固定術が追加検討される。
原因:青少年の約10%にみられ、スポーツ愛好家や選手では一般の子供の約3倍発生率である。成長期での活発な運動、とくに腰椎の過度の伸展や屈曲による荷重が関節突起部に繰り返し加わって生じるストレス骨折と考えられる。分離部の組織所見は骨折の偽関節のそれに近似している。
症状:無症状のものがかなり多い。
@先天性すべり症
腰痛と大腿後面の痛みを訴える。L5−S椎間のすべりによる後湾変形とそれを代償するための腰椎前湾増強の姿勢を示す。SLRテストで下肢痛は生じないが、挙上が制限されるハムストリングの緊張がみられる。高度のすべりによって馬尾や神経根の障害が発生することがある。
A脊椎分離を伴うすべり症
L5によく起こり、腰椎前湾が増強する。すべり度が50%を超えるような高度のすべり(Meyerdingのすべり度3°以上)では、腰を背側から診察すると棘突起間に段差がみられる。労作あるいは腰の屈曲で腰がずれるような不安感や張った感じの腰痛を自覚し、しばしば大腿後面に重圧感を覚えることがある。また、片側ないし両側の下肢痛を生じる。椎弓は後方へ残っているので馬尾障害は生じない。
B変性脊椎すべり症
徐々に発症した腰痛であることが多い。脊柱管狭窄という病態を呈すると、下肢の疼痛やしびれ、および間欠は行を訴える。他の腰椎退行性疾患と比べ、馬尾性間欠は行を呈する頻度が高い。したがって、両下肢の脱力感、会陰部のしびれや熱感、膀胱直腸障害、および男性では歩行時の陰茎勃起などの症状が出現する。
検査項目:腰部の棘突起の並びが乱れ、分離部では階段状形成がみられる。すべり症になると階段状形成が著明となる。階段形成は体幹の前屈で著明となり、後屈で減少する。確定診断はX線所見による。とくに斜位撮影写真で分離が明らかに証明される。
※Meyerding法によるすべりの程度
grade1:下位椎体前後径の25%以下のすべり度
grade2:50%に達するもの
grade3:50〜75%のもの
grade4:75%以上のすべりを示すもの
合併症:椎間板変性により、椎間板ヘルニアを合併することがある。
治療方法:保存療法が主体となる。腰痛の激しい急性期には局所の安静のため軟性コルセットを装着する。急性症状がとれた後は温熱療法、体操療法を主とする。症状が頑固で、しばしば再発し、日常生活、労働に支障をきたすようなときには手術も考慮される。手術は固定術で、その方法は後固定術、後側方固定術、前方椎体固定術などがある。また、小児期では分離部に骨移植を行って分離部を骨性癒合させる手術を行う。
禁忌・注意:青少年では保存的治療による癒合が期待でき、スポーツ活動を少なくとも6ヶ月間休止させる。選手である場合、取り残されることを心配するための心理的ストレスが大きく落胆に陥りやすいので、希望を持たせ励ましながら対応することが大切である。腰痛が支障とならなければ必ずしもスポーツ活動を禁止する必要はない。
成人では癒合はみられないが、脊椎分離があるから腰痛が必発というわけではない。痛みがない場合、あるいは軽度の場合には、仕事やスポーツ活動を必ずしも禁止する必要はない。
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