<体幹の筋の働き> 体幹の筋作用は、両側性活動と一側性活動がある。両側性の活動をすれば体幹は屈曲もしくは伸展する。一側性活動をすれば側屈や回旋が行われる。 体幹の筋作用はある程度、筋付着部位の固定性や安定性の相対的な程度によって規定される。例えば、最長筋での作用では、骨盤が固定されれば胸郭が引き上げられ、胸郭が固定されれば骨盤の前傾を促すことになる。両方自由に動くとしたら、胸郭の引き上げとともに骨盤の前傾が行われる。このように筋の力はトルクとして現される。 力の発生の場合、運動方向に発生する力と、筋が利用できる力(モーメントアーム)の長さの積に等しい。 例えば、外腹斜筋は垂直方向30°の傾きで筋線維が走行している。この場合、筋線維方向には最大で100%の力がかけられる。水平方向に体幹の動きがでた場合sin30°で50%の力が、垂直方向の動きにはcos30°で86%の力が参加できることになる。 脊柱起立筋は骨格に沿ってかなりの距離を越えて存在する。このため、細かい運動よりも体幹全体の粗大運動として働くことを表している。収縮すると骨盤の前傾とともに腰椎の前弯を増強させる。 横棘筋群(半棘筋、多裂筋、回旋筋)は脊柱起立筋と比べて体幹骨格全体を通じて椎間をまたぐ数は少ないため、緻密に制御された運動を行う。 <脊柱起立筋のトルク> 荷物を持つような体の前方で行われる運動に対して、脊柱起立筋はモーメントアーム比が短いため大きな力を生み出す必要がある。5cmのモーメントアーム比を持つ脊柱起立筋が、70cm先の荷物を持つ力に対抗するためには、70÷5で14倍の力を発揮しなければいけない。荷物が30kgなら起立筋は420kgの力で対抗しなければならない。 そのため、急性腰痛が軽い荷物でも起こることや、くしゃみで急速な体幹前屈が行われたときに腰を痛めることの説明ができる。 腰を痛めないためには、荷物を後方で持つ方法が有効であるが、片側だけで荷物を持つと反対側の起立筋に負担が大きくなる。例えば、右腰部を痛めている患者には、右後方で荷物を持つ指導をすれば、右腰部にかかる負担が一番少なくなる。 私の考え・・・ 臨床では起立筋群の緊張がとても高い患者がよく見受けられる。このような患者は筋緊張をほぐすだけでは治療できない。筋緊張が高い原因は多岐にわたるが、ほとんどの場合椎体の動きは非常に少なくなっている。 体幹のアライメントを治して各椎間関節の動きを出すことができれば、起立筋群だけに負担を任せることなく、横棘筋群の働きを促すことができる。 骨盤の前傾が強い患者も多いが、やはり起立筋の緊張も高い。腰椎後湾の動きを出し、中殿筋を中心に大殿筋も鍛えることが必要。骨盤−腰部の動きを出させ、各筋を有効的に使えるようにすれば負担も少しずつ減っていく。もちろん、ストレッチを日常的に行ってもらうことも必要で患者の協力がなければ慢性腰痛は治っていかない。 |