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理学療法の知識と基礎 病院・クリニック・介護施設の勤務を経て辿りついた思いです.

腰椎椎間板ヘルニア病態とリハビリA

【原因】

 スポーツなどの力学的負荷や体幹前屈位での動作(長時間の車の運転や介護など)によって、脱出した椎間板組織が神経根を圧迫することが原因である。また、過度な腰椎前弯や側弯症などのアライメント異常でも起こるとされている。

 【症状】

@腰痛
A下肢痛(坐骨神経痛)
B知覚障害
C運動障害(筋力低下)
D膀胱直腸障害

 

 @は重量物挙上やスポーツなどの力学的負荷や体幹前屈位での動作(長時間の車の運転など)によって、椎間板組織が神経根を圧迫することで起きる。

 A、B、Cは圧迫された神経根が支配する下腿や足部の領域に起こる。椎間板は人体内で最大の無血管組織であり、髄核が血流の豊富な硬膜外腔に脱出すると、髄核は異物とみなされ、自己免疫反応による炎症が発生する。また、髄核が神経根に接触することで、神経伝達速度の低下も起きる。つまり、炎症と神経伝達速度の低下によって下肢痛、知覚障害、運動障害が起きる。

 Dは大きな椎間板ヘルニアが正中背側に発生(正中ヘルニア)し、硬膜管内にある馬尾全体を圧迫すると生じる。この場合、下肢に多根性の知覚運動障害も生じる。よって、正中ヘルニアで生じる障害を馬尾圧迫症候群cauda equine compression syndromeと呼ぶ。

 【予後】

 腰椎椎間板ヘルニアの大多数が保存療法で治癒されるため予後は良好である。しかし、痛みやしびれが強い場合は手術によりヘルニアを取り除かなければならない。

 【治療方法】

 @保存療法

  通常、ほとんどの患者は3ヶ月以内に保存療法で軽快する。椎間板ヘルニアの大半は、脱出したヘルニア腫瘤の周囲に肉芽が形成され、その肉芽の血管から遊走した貪食細胞によって貪食されて、ほとんどが約3ヶ月で消失する。

  保存療法は、受動的治療と能動的治療に大別される。前者には、安静を始めとして薬物、物理療法などが含まれ、後者には体操療法を中心とする運動療法が含まれる。

   

【評価方法】

 @問診
症状の程度や経過などを確認する。姿勢や動作に伴う痛みの有無およびその程度や頻尿、排尿遅延、残尿感、失禁の有無、食欲や睡眠などの身体状況、さらには心理的ストレスなども確認する。

 A観察・視診 
理学療法室へ来室したときから評価を開始する。部屋に入ってきた際の歩容、立位姿勢、椅子への腰掛けの様子などを観察する。

  a.歩行
 症状の激しい急性期では、かばうように手を腰にあてたり、状態をかがめ片側の膝を曲げたりして歩く疼痛性跛行が見られる。

  b.立位姿勢
腰椎の前彎が保持できず、屈曲位を呈する。これは、ヘルニア腫瘤の後方への圧が高まるために、それを緩和しようと前屈位となるが、椎間板内圧は前屈位の方が高まるため(図2)、時間とともに症状が増悪し、増悪した症状を緩和するために腰椎はより後彎を呈するようになり、ついには上体を起こせなくなる。

また、側彎もみられる。これは、患部を凸側に偏位させ椎間孔を拡大させることで、神経圧迫を緩和しようとしている。このため、姿勢矯正を行うと症状を誘発するが、座位や臥位など疼痛が軽減する肢位では側彎も消失する。

これら2つの立位姿勢は、逃避姿勢がもたらす不良姿勢である。

  c.座位姿勢
椎間板内圧の観点からも、立位でいるか臥位の方が楽なため、手で姿勢を支え、殿部を浅めにして腰掛けた姿勢となる。

 

 B触診
棘突起の圧痛や叩打痛、および傍脊柱部の異常筋緊張が認められる。

 C運動診
立位姿勢で極力行うが、ただ体幹を屈曲させ、視床間距離を測定すればよいということではない。体幹を屈曲する時、腰椎の動きがあるか否か、棘突起が突出してくるのか否かを確認しなければならない。

腰椎椎間板ヘルニアの場合、前屈の際に疼痛が生じるため体幹の屈曲が困難である。また、腰椎の伸展は膝を屈曲させて代償させる動きが見られる。

D神経学的所見
 神経学的テストとしては膝蓋腱反射テストとアキレス腱反射テストがある。前者は主にL4根の、後者はS1根の反応である。そのため最も多いL5根の障害の反応は判定しにくい。

  刺激徴候としては、坐骨神経や上殿神経の圧痛(Valleix圧痛点)、SLRテストや大腿神経伸張テスト(FNSテスト)が用いられる。他にもBragard徴候などがある。

  筋力低下を調べるものとして、MMT(徒手筋力テスト)が用いられる。  これら、神経学的所見をまとめたものを表12に示す。

 

   

 椎間板ヘルニア高位別の所見

 

神経学的高位診断